皆さま、こんにちは!
「そもそも偏差値ってなに?」ということを考えていくシリーズ、今回はその第7回で、最終回となります。
第3回で、現代の中学受験でどう偏差値をとらえるべきかについて、以下の4点をポイントに挙げました。
①そもそも偏差値はぶれるもので、最大で偏差値6くらいの上下は自然に起こる
②偏差値同士の比較には注意が必要で、特に同内容の試験でなければ推移を追うことにあまり意味はない
③偏差値を利用して受験の合否を判断する場合、向いている試験と向いていない試験が存在する
④偏差値はひとつの指標であって、試験内容、順位、平均点など、他の要素と総合的に考える必要がある
今回は、この4つのポイントのうち、④についてより詳しく説明していきます。
ここまでの全6回の内容で、実は④にあたることは何度も書いてきています。
ですので、今回はこれまでの6回の内容をざっと振り返りつつ、まとめとして④を再度確認します。
なお、参考資料として偏差値の創案者として知られる桑田昭三先生の著書とインタビューを用いています。
1つ目は、1976年に徳間書店から発刊された『創案者が初公開する進学必勝法 偏差値の秘密』(絶版)です。
2つ目は、インターネット上で公開されているインタビュー記事です。
https://teval.jalt.org/test/PDF/Kuwata-j.pdf
今回は、直接の引用はありませんが、興味のある方はご参照ください。
偏差値が示すのはおおまかな「実力」
まず、第1回と第2回では、偏差値という数字の捉え方について、偏差値の計算方法から考えました。
また、第3回では、創案者の桑田先生がどういった考えで、偏差値を教育現場に導入したかに迫りました。
第1回 https://www.chugakujuken.com/koushi_blog/takada/25309.html
第2回 https://www.chugakujuken.com/koushi_blog/takada/25473.html
第3回 https://www.chugakujuken.com/koushi_blog/takada/25707.html
偏差値は、全体の平均点と、得点のばらつき具合を示す標準偏差という2つの数値から計算されます。
ここで大切なことは、偏差値は測定したデータを統計処理した数値だということです。
同じ100点満点のテストでも、問題の難しさや受験者の層によって、同じ1点でもその重みが違います。
単純な点数だけを見ていてはわからない「実力」を、わかりやすく数値化できないかと考えて作られたものです。
統計処理をされた数値ということは、それが示すのはおおまかな傾向や過去のデータをもとにした確率です。
そのため、次のテストで同じくらいの数字が出る可能性は高いですが、必ずしもそうとは限りません。
測定には誤差がつきものですし、確率である以上は、確実な未来を予測しているわけでもありません。
しかもその確率は、あくまで過去のデータをもとにした確率です。
野球の打率というものが、一番イメージとしては近いかもしれません。
打率4割の打者がいたとして、その選手がここまでの打席で4割のヒットを打ってきたことは間違いないです。
しかしそれは、次の打席でも4割くらいの確率でヒットを打つ、ということには必ずしもなりません。
過去の実績から考えて、打率2割のバッターと比べればヒットを打つ可能性は高いかもしれません。
それでも、実際には空振り三振になることはあるわけです。
天気予報の降水確率も似ています。
過去の天気図や観測データから考えて、今日の雨が降る可能性を計算したものが降水確率です。
しかし、降水確率が80%でも雨が降らないことは当然あるわけです。
偏差値が示すものはこういったものに近く、あくまでそのテストから導き出されたおおまかな「実力」なのです。
偏差値が受験勉強をする上で非常に参考になるデータであることは間違いありません。
しかし、その数値は絶対ではなく、「このテストで測られたあなたの実力は大体これくらいですよ」ということです。
数字そのものに、あまり振り回されすぎないようにしましょう。
そもそも偏差値はぶれるもの
第4回では、偏差値がどのくらいぶれるものなのかを説明しました。
第4回 https://www.chugakujuken.com/koushi_blog/takada/25846.html
創案者の桑田先生自身の研究では、最大で偏差値は6ぶれるというのが結論でした。
理由としては、測定には誤差がつきものであるし、あくまで過去のデータから計算した数字でしかないからです。
桑田先生自身も、偏差値60の生徒は次のテストでも偏差値60が出るのではないかと最初は考えたようです。
そういう数値を目指して研究したのだが、どうしてもそうはならなかったということです。
そもそも偏差値は揺れているもので、偏差値6くらいの変動は自然なものと考えるべきだということです。
偏差値のアップダウン、特に小さな値での変動に過敏になる必要はないと考えましょう。
偏差値同士の比較には注意が必要
第5回では、偏差値同士の比較や推移を追うことの意味について、注意すべき点を説明しました。
第5回 https://www.chugakujuken.com/koushi_blog/takada/25976.html
内容が異なるテスト同士の偏差値を直接比較することには限界があり、推移の意味合いも薄れがちです。
テストの種類によって、出題範囲の広さ・難度・母集団の性質が変わるためです。
特に、出題範囲が限定されるテストでは、偏差値の解釈に注意が必要です。
範囲が狭いテストでは、偏差値が示すのは「範囲内の得意・不得意」だけです。
その科目全体の「実力」を測る指標としての信頼性は低いことになります。
偏差値のアップダウンを気にするのは、出題範囲の広い実力試験的なものだけでよいでしょう。
偏差値による合格判定をどう考えるか
第6回では、模試の偏差値で合格判定を考えることの向き不向きについて説明しました。
第6回 https://www.chugakujuken.com/koushi_blog/takada/26097.html
ポイントは2つで、1つ目は模試によって判定が得意なゾーンが異なるということです。
模試の受験者のレベルが全体的に高く、問題の難易度も高めの場合は、上位校の判定精度が高くなります。
そういった模試の場合は、中堅校の判定の精度が低くなります。
これは、ひとつの模試ですべてのゾーンを同様に判定するというのが、事実上不可能だからです。
その模試が焦点を当てているゾーンがあるので、志望校がその模試にあっているかは考える必要があります。
場合によっては、通っている集団塾の模試とは違う模試を受けてみるということも考えましょう。
ポイントの2つ目は、模試の出題形式や内容が受験校のそれと異なることが中学受験では多いということです。
中学受験においては、学校ごとに出題に特色があることが多く、それが必ずしも模試の傾向とは一致しません。
そのため、過去問を解いてみて、受験校の問題に対する適性を見るということが大切になってきます。
また、学校別の模試がある場合は、その結果をより重視して考えるのが基本です。
しかし、学校別の模試も絶対ではなく、どうしても本番より難しい問題になる傾向があります。
そのため、あまりに低い平均点になっているような場合は、参考にならないと考えることも必要です。
偏差値とどうつきあうべきか
では最後に、ポイント④について説明して、このテーマを締めようと思います。
ここまでの振り返りを読んで頂いて、「で、結局はどうすればいいわけ?」となったのではないでしょうか?
考えることが多すぎて、もっとわかりやすくならないのかな、というのが素直な感想かと思います。
私もまったく同じように感じますが、しかし残念ながら、このテーマについてわかりやすい解決法はないのです。
まず、偏差値がお子さんの「実力」を知る上で、もっとも参考になるデータであることは大前提です。
今のところ、偏差値以上の有力なデータというのはありません。
しかしながら、そのもっとも有力なデータでさえ、一面しか示しておらず、万能なものではないのです。
偏差値はそれだけでお子さんの「実力」を判定し、志望校の適性や合否を決定する魔法の道具ではありません。
出題傾向と難易度・順位・得点分布といった他の要素と組み合わせて、総合的に判断することが不可欠です。
そもそも、創案者の桑田先生は公立高校入試における合格判定を科学的に行うために偏差値を考案しました。
以前に何度も書いているように、公立高校の入試においては、偏差値の合格判定の精度はかなり高いです。
しかし、中学受験においては、そこまでのデータにはなっていないのが現状です。
他の目的に設計されたデータの処理方法を、中学受験に応用的に使っているだけなので、それは当然です。
それでも、もっとも有効なデータになっているということが、偏差値という考え方の優秀性なわけです。
大切なことは、偏差値というデータを軸にしながら、他の要素も常に念頭において総合的な判断をすることです。
冷静にデータを見て、どういった問題に弱いのか、復習するべき単元はなにか、落ち着いて考えましょう。
さらに、お子さんの性格や向き不向き、好不調の波なども考えに入れましょう。
得意な分野の問題が出た・出ないという「運」の要素すら、考えに入れた方がよいと思います。
お子さん自身も小学生です。
そもそも成長途中の段階で、絶えず変化を続けている年代です。
安定したパフォーマンスを発揮すること自体が、かなり難しいはずです。
前日に何を食べたか、どのくらい寝たかなども、影響しているかもしれません。
ただ、いま書いたようなことすべてに神経を配った方がよい、と言いたいわけではありません。
そうではなくて、逆にわからないこと、不可知な部分が多すぎるのが小学生の中学受験だということです。
AだからBになるはずだ、というような、単純な因果関係は小学生には通用しません。
偏差値が〇〇だったから、次もそうなるはず、ここは合格するはず、というようなことも通用しません。
正直、「何でそうなるの??」ということの方が多いと思います。
しかし、中学受験というものは、そもそもそういうものだと思っておいた方が良いです。
そういう心構えでいれば、多少のことでバタバタと慌てることはなくなります。
小学生のお子さんは、おとなの動揺や混乱を敏感に察知して反応します。
目の前の学習やテストにお子さんが集中するためにも、おとなの方は大きな気持ちで構えておきましょう。
そんな先の見えにくい中学受験において、偏差値は数少ない頼れる道しるべのひとつなのです。
数値に一喜一憂するよりも、ではこれからどうするべきか?を考えることに意識を向けましょう。
偏差値は、今後の学習方針や、受験対策をより良い方向に導いてくれる大切なツールです。
イメージとしては、健康診断の数値のようなものだと考えるのが良いと思います。
健康診断の結果で一喜一憂する人はあまりいないと思います。
また、今回の数値が良かったからと言って、次回も同じような結果が出るとは限りません。
逆に悪かったからと言って、次回も悪いとも限りません。
大切なことは、その結果を見て、今日からの生活をどうしていくかでしょう。
食べ物にもう少し気を付けようとか、運動をもう少ししようとか、良いなら良いで今の生活習慣を続けようとか。
あまりに数値が悪い場合は、専門家のお医者さんに診てもらって、きちんと治療するということも大切ですね。
ということで、偏差値はいまの自分の立ち位置を知り、今日からの学習を考え直すためのものです。
そしてそれは、あくまで道しるべであって、わりとぼんやりとしたものだということも知っておいてください。
自然な変動はあるし、未来をはっきりと予言してくれるものでもありません。
また、偏差値は相対的なものですから、自分の実力が上がっていても、数値が下がることは当然あります。
お子さんの努力と成長を公正に評価して、お子さんのモチベーションを維持することを大切にしてください。
成績や偏差値をどう捉えていいかわからないというときは、専門家のプロの先生に相談してみてください。
以上で、偏差値について考えてきた今回のシリーズは終了となります。
では、また次回お会いしましょう。

