夏休みも終盤になりました。知識の詰込みは順調ですか?暗記嫌い講師の永田です。
最近少しずつ増えているいわゆる「正解の無い問題」。基本的に理科の問題ははっきりと答えが決まっているものがほとんどなのですが、時々「あなたの意見を書きなさい」という出題がされます(社会や国語と比べると少ないとは思いますが)。大抵は「意見の選択肢」+「理由の記述」という形です。同じ形でも、問題文や知識から意見の選択肢が絞れる場合もあるのですが、絞れないものが「正解の無い問題」と呼ばれます。
では、このような問題にはどう答えていけば良いのでしょうか。基本的に「正解の無い問題」では、「意見の選択肢」はどれを選んでもかまいません。しかし、試験問題であるからには採点されるわけで、その基準となるのが「意見の選択肢」と「理由の記述」の間での「論理の整合性」です。
実際の中学入試の問題から具体例を見てみましょう。須磨学園2021年度第2回の問題から抜粋します。
(問題文抜粋)動物の腸内にすんでいる細菌は、動物のからだにも大きな影響を与えます。例えば、肥満のマウスの腸内から細菌を取り出して、肥満ではなく腸内に細菌のいないマウス(無菌マウスと呼びます)の腸内に移植する実験を行うと、移植をうけたマウスが肥満になることが知られています。
(問)肥満のヒトの便から腸内細菌を取り出して、無菌マウスの腸内に移植すると、移植をうけたマウスはどうなると予想しますか。解答らんの選択肢(肥満になる・変化しない・やせる)から1つ選び、〇をつけ、そのように考えた理由を40字以内で答えなさい。
ありがたいことに学校解答が公開されていた(現在は公開期限切れ)ので確認したところ、選択肢のどれが正解ということはなく、それぞれの選択肢に対して解答例が示されていました。やはり採点基準は「論理の整合性」=「しっかり話がつながっているか」ということになります。
また、問題の背景に触れておくと、動物の消化管内にはいろいろな細菌が住みついていて、消化の手助けをしています。中学受験で有名なのは牛の胃の中で植物の分解を行っている例でしょうか。もちろんヒトの腸内にもいろいろな種類がいます。この問題で出てきた細菌は、肥満の原因となるので通称「肥満菌」と呼ばれています。「肥満」と聞くとネガティブなイメージですが、食物から効率的に栄養を吸収できるようにする、食糧不足の時代にはとても大切だった細菌たちです。
それでは問題を考えていきましょう。問題文にあるとおり、肥満のマウスから無菌マウスへの細菌移植では、移植されたマウスが肥満になることから、マウスの体形が腸内細菌の影響を受けることは明らかです。ポイントになるのは、「ヒトの腸内細菌がマウスの腸内に入ったときに何が起きるか」を想像してみることです。もっと言うと、ヒトとマウスを近い仲間と見るか別の動物と見るか。
もし、ヒトとマウスは(どちらもほ乳類ですし)近い仲間と見るならば、ヒトの腸内細菌がマウスの腸内に入っても同じようなはたらきをすると考えることができます。「肥満になる」を選ぶのであれば、理由は例えば「ヒトとマウスはどちらもほ乳類なので、腸内細菌も同じはたらきをするから」(34字)ということを書くことになります。
では、ヒトとマウスは違う仲間と考えるとどうなるでしょうか。この場合は、ヒトの腸内細菌がマウスに入ることでどのような影響を与えるかを想像することになります。問題文には特にヒントがないので、ヒトの腸内細菌がマウスに入っても何も影響を与えないと考えるのであれば「変化しない」、ヒトの腸内細菌が入ることで体調をくずす原因になると考えるのであれば「やせる」を選ぶことになります。いずれにしても、選択肢と理由がしっかりとつながっていれば〇をもらえるはずです。
ということで、実際の入試問題を題材に「正解の無い問題」の答え方を見ていったわけですが、正確に言えばこの問題は「正解のまだわからない問題」ではないかと思います。だって、実験すれば答えが出るわけですから。実際に試してみて、例えば肥満になったのであればマウスの腸内で移植した細菌が増えて活動していることを確認したり、やせたのであれば腸内細菌がどのような影響を与えているかを確かめてみたり、こうやって「正解のまだわからない問題」をわかったことに変えていくのが科学の進歩なわけです。
対して、例えば何らかの案に対して賛成か反対かといった問題は、「正解の決めようがない問題」ではないでしょうか。ちょうど先月参議院議員の選挙がありましたが、政党間の意見の違いは主にどこに着目するかの視点の違いだと思います。それぞれの視点や立場からそれぞれの正解が導かれ、どちらも正解でありながら一致することはまずない。まあ、入試問題としては、とくにこだわりがなければ自分で理屈を付けられたほうを書いていけば点は取りやすいのではないでしょうか。こちらのタイプの問題については次回触れていきます。ようこそ哲学沼へ。
それでは皆様、Have a good science!