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投稿日:2024年02月01日

テーマ: 国語

中学受験 頻出ワード『集大成』と2月

受験Dr. の国語講師、田村亮祐です。今回から講師ブログの執筆を担当することになりました。よろしくお願いいたします。

 

『2月の勝者』が世間の話題になって久しいですが、今年もまさにその2月がめぐってきました。これまで志望校合格に向けて一心に勉強に励んできた受験生の皆さんは、これまでの集大成として入試問題と戦っていることと思います。全力を出し切っていることを切に願いつつこのブログを書き進めています。

 

この「集大成」という言葉について、今回は少し深堀してお話をしていこうと思います。
中学受験国語においてこの「集大成」という熟語は、覚えなければならない入試に頻出の言葉です。
サピックス小学部が制作した『言葉ナビ』にも、下巻の三字熟語の項に収録されています。そこには

 

「長年の努力の成果を一つにまとめたもの」

 

とこの「集大成」の意味を解説しています。まさに受験生へのメッセージのような解説ですが、
『広辞苑』にも

 

「多くのものを広く集めて、一つのものにまとめ上げること。また、そのもの。集成。」

 

と説明されていますから、現代ではこうした意味を持つ言葉として捉えるのが一般的です。
しかし言葉とは時代によって意味や用いられ方が変化する場合が多々あります。
実はこの「集大成」という言葉も時代で用いられ方が変化してきました。
ここからはそもそもの用いられ方を確認してみようと思います。

 

この言葉の出典は、孟子という今から2300年位前の紀元前3~4世紀ころに、今の中国の地に生きた人物の言葉や行いの記録がまとめられている『孟子』という書物になります。この『孟子』という書物は、いわゆる儒教では基本となる書物のひとつとして扱われていて、日本では江戸時代に入ってから特に広く読まれるようになり、幕末の志士たちにも強い影響を与え、彼らの行動指針にもなりました。

 

話しがやや脱線しますが、この『孟子』を出典とする別の言葉に「革命」があります。「革命」は文字通り現代でも通じる「ロシア革命」と言った場合の意味合いが含まれていることから、天皇を中心とする中央集権国家であった日本の平安時代ころは、『孟子』が積荷に含まれていると日本に来る船はかならず転覆すると言われていました。当時の朝廷からすれば都合の悪い内容だったからです。

 

でも面白いことに時代が下った江戸の幕末には、徳川から大政が天皇に奉還される維新というまさに革命的な出来事の原動力のひとつに『孟子』の考えが影響していたのですから、朝廷の役に立ったとも言えそうですね。

 

話題を「集大成」に戻します。
この「集大成」という言葉は、孟子が尊敬する大先輩である孔子を評価している下りに登場します。
以下に引用します。

 

「孔子は聖人としてその時々で適切に正しく行動する人である。だから孔子は(全ての徳を)集めて大成したと言える。」

 

なんだか少し分かりにくい内容ですので、説明を補足します。
実はこの下りの前段で、孔子以外の別の聖人たちが話題になっていて、孟子はそれぞれの優れたところを紹介しています。この優れたところを「徳」と言い換えられますが、「清い」とか「責任感」とか「温和」と言ったそれぞれの聖人が持つ徳を全て兼ね備えている(集大成した)ので、孔子は臨機応変に物事に対応できるのだと言っているのです。

 

要するに孔子を賛辞するために「集大成」という言葉が用いられた訳です。

 

ちなみに東京のお茶の水に湯島聖堂という史跡があります。JR線のお茶の水駅のホームから神田川越しに見える緑の屋根の大きな建物がそれですが、ご覧になったことがある方もおありかと思います。この史跡内に孔子を祀っている建物(廟)がありますが、「大成殿」と名付けられています。もちろん「集大成」からとった名称です。この湯島聖堂は江戸時代の昌平坂学問所のことで、この学問所が現在の東京大学のルーツのひとつとなっています。

 

学問の神様と言えば日本では特に菅原道真が有名ですが、新6年生になるみなさんはこの孔子に合格祈願のお参りをするのも良いかもしれませんね。

 

では孟子がこの「集大成」という言葉を作ったのかと言えば、それは違うようです。昔の中国の学者の説では、本来は音楽用語であったようです。
音楽は楽器が発する一音一音が集まってハーモニーとなり、そのハーモニーが集まって楽曲を構成しているわけですが、このハーモニーが集まり楽曲を構成することを意味する言葉が、「集大成」であったようです。

 

ここまで「集大成」についてお話をしてきました。
新中学生になるみなさんは、受験勉強で沢山の言葉を身に着けたことと思います。それらの言葉の中からふと気になるものがもしあったら、新生活の中で深堀してみて下さい。きっと思いもよらない新しい知識との出会いがあったりするかもしれません。

 

これから受験学年を迎えるみなさんは、言葉をただ丸暗記するのではなく、今のうちに意味や用例などの知識を身に着けていって下さい。きっと入試で役に立つことになると思います。

国語ドクター