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投稿日:2024年01月30日

テーマ: 国語

聞けばなるほど!中学入試に出る暦(こよみ)の学び

「日日是学日!」
受験Dr.の松西です。

2月に向けて頑張ってきた受験生たちのラストスパートを応援します。
そして、2月は同時に多くの塾で生徒たちが新しい学年を迎える時期でもあります。
そんな成長するみなさんと『学び』の体験を共有したいと思います。

さて、みなさんは「五月(さつき)晴れ」という言葉を耳にしたことがありますか?
そしてどういう意味か、きちんと説明できるでしょうか?
その答えは記事の最後で扱うとして、今回は受験国語に役立つ暦(こよみ)知識、
そしてその土台となる『旧暦と新暦のズレ』について、お話します。

コトの始まりは明治初期。「欧米文化に追いつこう」とやっきの政府は
「太陽暦に改暦し、国際標準にあわせよう」と決断して…

図1

 

驚くべきことに公布してから、たったの一か月で施行します。これが「明治の改暦」。
今回のメインではないのでさらりと扱いましたが、「明治の改暦」には面白いドラマがあります。
中学生になったらぜひ学校の図書室で調べてみてくださいね。

図の表をみれば旧暦十二月が新暦1月となり、約一ヵ月のズレが生じたことが分かります。
これが「五月晴れ」を分かりにくくした原因なのです。ていねいに見ていきましょう。

※ なお区別のため、旧暦を漢数字、新暦を算用数字で記します。
図2

 

みなさんは、お月見の季節を9月だと知っていましたか?
「お月見団子」などから連想してもいいですね。

図3

 

旧暦は「1~3月=春」「4~6月=夏」と区切り、
それぞれ初春、仲春(ちゅうしゅん)、晩春(ばんしゅん)と表現していました。
表中の①②③の数字をたどると「仲秋」は八月です。
つまり「仲秋の名月」とは「旧暦八月十五日の月」を指していたのです。
これを新暦になおし、現代ではお月見を9月に楽しみます。
お盆も、旧暦では七月の行事でしたが現代では8月。
また三大祭の一つ、京都の祇園(ぎおん)祭は旧暦六月の行事でしたが、現代では7月に行います。
このように「旧暦の季節感とそろえて実施月をずらすパターン」を、
ここでは『素直にスライド型』と名付けてみます。

 

図4

 

では次の図をご覧ください。
私は幼い頃から、1月の「新春」という呼び方にず~っと違和感がありました。
まだすごく寒いのに「春」なんて文字を使って、ヤセ我慢している感じがしたんですね。

 

図5

 

実は「新春」とはもともと「旧暦一月、今の2月初めくらいの気候」を指す言葉。
この記事が出る1月末~2月初めなら「まぁ新春と言ってもいいかな」という気候です。
また3月3日は桃の節句とは言いますが、その時点では桃の花盛りとは言えません。
節句は5つありますが、どれも少しズレている…とりわけ7月7日の七夕(たなばた)。
お空を眺めるイベントなのに「なぜか梅雨時」に行います。
これは明らかに変ですね。
※ちなみに東北三大祭りのひとつ、仙台の七夕祭りは旧暦にあわせて8月に開催されます。

これらのイベントの共通点は「名前に数字が関係するため、季節感よりも日付にこだわっている」
ことです。これらを『頑固にゴリ押し型』と名付けることにしましょう。
赤いナナメの矢印が「ゴリ押し」の目印です。

 

図6

 

最後にまとめます。
「五月晴れ」の説明は次のようになります。

【40字以内版】
・梅雨時で雨の多い旧暦の五月に、数少ない晴れの日をめずらしがって呼んだ表現。(37字)

【120字以内版】
・本来は旧暦五月の梅雨の時期に、雨間に訪れるよく晴れ渡った日をとらえた表現だったが、明治の改暦で梅雨が六月にずれたにもかかわらずそのままの呼び名で使い続けられ、現代では単に「五月らしい晴れた天候」を指すなど、異なる意味でも使われる言葉。(117字)

では「七夕ってなんでいつもくもりが多いんだろう」って誰かに聞かれたら、答えられますか?
「言いたいことを的確に述べ、字数に収める練習」は、そのまま国語のトレーニングになります。
80字以内なら? 120字以内なら? どう説明するかチャレンジしてみましょう。

ところで、2023年の豊島岡女子の国語に「暦に関する出題」がありました。
「(物語文中にある)処暑は、暦による季節区分を示す二十四節気の一つです」
「どの時期にあてはまるか、適切なものを選びなさい」というものでした。
下の表は実際の問題を簡略化したものです。

 

図7

 

物語文中にはその場面が「8月24日」であると日付が明示されています。
「処暑」という語感から「イ」を選びたくなりますが、それは間違い。ポイントは「立秋」の季節感です。ウナギを食べる習わしがある「夏の土用の丑(うし)」。
実は土用とは「立春・立夏・立秋・立冬」の前二週間のことなのです。ですから、ウナギを食べる日に「もうすぐ立秋!」とカレンダーで確認するひと工夫の体験があれば、この問題は他の語句を知らずとも「ウ」であると解答できます。
さりげなく暦の教養を問うてくる、良い設問だと思いました。
ちなみに2024年の立秋は8月7日、土用の丑は7月24日と8月5日です。頭のカレンダーにインプットしておいて、その時期が来たら思い出してください。

 

図8

日々の暮らしで通り過ぎ行く季節感を見逃さず、暦を体感する。
そんな一年間にしてみませんか? ぼたもちを食べてかしわ餅を食べて、ウナギの匂いにうっとりし、お月見バーガーを食べる。なんだか食べてばっかりですが…
暦は『私たちの暮らしの中で生きて』います。そこに眼が向く受験生であってほしい。
冒頭にあげた『日日是学日』は「日日是好日」という成句をもじった造語です。
そこにこめた想いは「日々、これ、まなび(学びの日)」。
教室でも毎日の暮らしの中でも『学び』を見つけ、知識をカラフルに彩りましょう!

国語ドクター