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投稿日:2024年05月10日

テーマ: 国語

中学入試に出る暦(こよみ)の学び with【夏の俳句】

「日日是学日!」(⇒ 日々、これ学び!)」

受験Dr.の松西です。風薫る緑、晴れ渡る青空。気持ちのいい季節ですね。
こういうのを「五月(さつき)晴れ」と言うのでしょうか。

いやいや、ちょっと待ってください。たしか「旧暦の五月は現代の6月ごろ」でしたね。
なんのことやら混乱しそうなので復習いたしましょう。というわけで今回は暦の学びです。
前回の記事をあわせてご覧いただくと、より理解が深まります!

『頑固にゴリ押し型』

頑固にゴリ押し型のイメージ
まずお約束として「旧暦では四月・五月・六月」が「夏」です。
(新暦との混同を避けるため、あえて漢数字にしています)
陰暦の五月は現代の6月にあたります。たとえば…

・五月雨(さみだれ)を 集めて早し 最上川(もがみがわ)
・五月雨(さみだれ)や 大河を前に 家二軒

この二句は、江戸期の俳人が「梅雨時の増水であふれかえる川を見て読んだ句」です。
梅雨は現代では6月ですね。それを「五月」という数字にこだわって、むりやり5月に使うと
「5月らしい晴れですね」という誤用になるのですが、それらしく聞こえてしまうのが問題。
本来は「梅雨時のわずかな晴れの日をありがたがって五月晴れと呼んだ」のですよ。
受験生の皆さんはもちろん「本来の意味」で覚えておきましょう。
「名称を季節感に優先」させるパターンを、ここでは『頑固にゴリ押し型』とします。

 

『素直にスライド型』

素直にスライド型のイメージ

さて、みなさんはこういう歌をご存じでしょうか?

♪ 夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂(しげ)る
あれに見えるは茶摘(つ)みじゃないか…

これ、今の小学生に「知ってる?」と聞くと、高確率で首を横に振られます。
このシーズンを語るのにぴったりな唱歌なのに…とさびしく思います。
ポイントは「八十八夜」で、江戸期の庶民の暮らしの実感にあわせた「雑節」の一つ。
この時期は本格的に夏に向かう「作物を植えるのに適した時期」であり、
歌にもあるように茶摘みのシーズンでもあります。これは日付の数字が入っていないので素直に
「新暦の5月初め」に移行しています。この季節感を覚えるためには、しばらく後の
テレビCMチェックがおすすめ。「新茶が入りました!」など、ペットボトルの宣伝が
増え始めると思います。ちなみに俳句の世界では「茶摘み」が春、「茶」が夏の季語です。

「桜」が春、「さくらんぼ」が夏の季語になるのと同じパターンですね。

さて、もうひとつ質問。「いつから数えて八十八夜と呼んでいるのでしょう?」

これぞ暦の学びです。単純に88日を引き算してもいいですが、陰暦の「起点になる時節」を
覚えていただきたい。ちょうど三か月前に、受験生なら目を通しているはずなのです。
「はず」なのですが…「記憶うすらぐ八十八夜」と勝手に替え歌したくなるほど、
お子様の記憶は「そろそろ忘れる時期」です。「いやもっと早いですよ!」という声も
聞こえてきそうですが、それだけ日々たくさんの学びをしている受験生ですから、ここは
楽しく学びながら思い出してほしいですね。忘れかけの時こそ覚え直しが効果あり、です。

「ほら、豆まきをしたその次の日の…」
「恵方巻、食べたでしょ?」
この辺の、実体験を混ぜてあげると記憶の定着も進むかもしれません。それでも浮かばない
ようでしたら追加で、この記事が出た5月半ばくらいですと…
「ついこの間、かしわ餅食べたでしょ? あの日からが立夏だよ」とヒントをあげてください。

食べ物ばかりですけれども(苦笑)。

※二十四節気は年度によって日が前後します

さて、ここからは「俳句をまじえて」お話をします。中学受験生の悩みの一つかと思います。
「俳句の学習はどうするのがよいか」。その辺も後半でお伝えします。まずは
「中学入試に出た俳句・夏」の一覧表をご覧ください。あくまで私が個人的に記録しておいた
リストの一部であり、すべての出題を網羅しているわけではないことをご了承願います。

中学入試に出た俳句・夏」の一覧表

次のルールで収録句を選定しています。
①過去10年程度の出題から。ただし灘中学・大妻中学はほぼ毎年俳句の出題があり、
直前期演習に影響が出ないよう受験生に配慮し、直近の5年分をカットしています。
➁近・現代の俳人のうち、著作権にふれる方の作品はカットしています。灘中学はとくに
現代の俳句からの出題が多いため、この一覧にあるのはごく一部ということになります。
➂俳句が重複している場合は代表として一つの学校名のみを載せています。

さてどうでしょうか。まさに今、もしくはこれからの季節にふさわしい俳句が目白押しです。
すべてを解説したいところですが、量が量だけにポイントを絞って進めます。

ポイント① まず今の時期の自然・風物を観て聴いて体験しよう

例えば2、9、10、13、14、20など「動物・植物・暮らし」に季節感が出るものは
「夏」というイメージを今の時期にからめてしっかりイメージ付けしましょう。
とくに「ほととぎす」ですね。これは春のウグイスとかんちがいされやすい鳥です。
鳴き声もあわせて押さえておきましょう。異名の多い鳥でして「正岡子規」のペンネーム、
子規もほととぎすのことですよ。調べてみましょう。

9「雲の峰」は入道雲です。10「麦秋」は頻出季語で「秋=収穫のとき」と見立て、
麦の収穫期を指しています。
20「行水」は水浴びのことです。カラスの行水、などの慣用表現に残っています。
ほかにも、夏の季語である植物と言えば紫陽花(あじさい)、菖蒲(しょうぶ)、蓮(はす)
牡丹(ぼたん)などなど。映像で見ておきたいですね。

ポイント➁ 季語はくりかえし目を通そう

現代とじゃっかんのズレがある季語。季節は「歳時記(さいじき)」で決まっています。
単語のみを見ていてもなかなか覚えられないでしょうから、俳句ごと読みなれるのが一番です。
2のような句を季重なりといい、一般的には季語の重複は避けるべきだと言われますが、
「青葉…視覚」「ほととぎす(の鳴き声)…聴覚」「初鰹…味覚」と、五感に働きかける
名句です。季重なりがタブーとみなされる近代までは自由に季語を用いた名句も多いです。
ほかに5のキツツキ、19のセミも季語ですが、これらの句は「夏木立」「夕立」が主体と
なって季節感を表しているので季重なりではない、と解釈されます。ただし絶対ではないので、
設問でわざわざこれらの箇所に傍線を引いて問う場合は「作題者が季重なりとみなしている」
場合もありえます。

ポイント➂ 俳句は「映像・音声・心象の再現イメージ」が大切

例えば1は、大きな月に棒を刺してうちわにしたら涼しそうだ、と詠むユーモラスな句。
8はハエの動きを擬人化して謝っているように見立てています。12もどこかユニーク。
16が曲者。蛙は「古池や 蛙飛び込む 水の音」など春の季語ですが、青蛙や雨蛙は夏です。
カリタス女子中では「ペンキ塗りたてとは青蛙のどのような様子か」と問うています。
春のカエルにくらべ、十分育ち切った色鮮やかな梅雨時期のカエルですので「照りかえすほど
生き生きとあざやかな緑色をしている様子。」などとなるでしょう。
(「青信号」と同じでこの場合は「緑」を指すので、「青」と書くのは避けましょう!

まだまだ解説をしたいところですが、そろそろまとめます。
俳句の勉強はどうするのがよいか? 生徒それぞれですが、優先順位は低いでしょう。
しかし早めに取り組んでほしいと私は思います。その説明をいたします。

小5までのお子様が後回しにしても、俳句を学ぶ機会は再びめぐってきます。でも小6生が
「後回し」にした場合、その時期が入試100日前を切っていたならば、私の場合は
「俳句より他のことをしよう」というでしょう。それくらい、入試前の受験生は忙しいです。
ほとんど俳句をやっていない生徒がゼロから「どうしようかな」と迷っている余裕は、
今年の後半にはもうありません。安易に後回しにすると手が回らなくなります。

他にも例えば先ほどの表の2番。雙葉中学の国語は「文章自体が俳句鑑賞文」でした。
素材文が俳句を論じるものや、物語文でも『そらのことばが降ってくる』『南風吹く』
などの俳句をモチーフにした作品が出た場合、俳句に苦手意識があれば頭に入りづらい
かもしれません。そういうケースを含めると、俳句になじんでおいた方が、無難です。

出題傾向に関してお伝えしますと、毎年のように知識や文学を細かに問う傾向がある学校を
除けば、たいていは「最低限のベースとなる知識」さえあれば、あとは本文や俳句の文字数を
よく観察するだけで解きやすくなるように「作題の先生方が配慮」しているように見受けます。
俳句が出ても、視野を狭めることなく与えられた情報から論理的に考えれば解答できるように
作られている、ということですね。パニックにならないことが大切。
俳句/短歌が必出の灘中学の問題にしても、深い知識というよりは「発想のやわらかさ」
「字数やヒントに対する観察眼」を確かめているように思います。

「最低限のベースとなる知識」と申しましたが、それが「ある程度の季語と暦に基づく季節感」
「表現技法」「切れ字・自由律俳句などの俳句の決まり」などになってきます。
皆さんお通いの塾でも俳句や短歌の授業はカリキュラムに組み込まれていると思います。
そういう基礎を「ないがしろ」にした場合、入試素材文に俳句を題材としたものが出たら…
きちんと冷静に対処できそうですか? 想像してみましょう。
雙葉中学であれば2月1日…首都圏入試の初日、そして国語は一時間目。「始め!」の合図で
紙をめくると問題文章中に俳句がポツポツ…そういう年(2016)も過去にあったということです。

そして受験生は「それがたとえ俳句だろうが短歌だろうが詩であろうが」目の前の情報を
読み取って、求められる解答を制限時間内にはじき出すことが求められるのです。

「俳句になじむ」。難しいようですが、それこそ日常に題材は転がっています。
例えば電車で塾にお通いの生徒は、駅や車内の広告で「植物鑑賞」「祭り」などのイベントを
目にすることがあるかと思います。そのときに「情報をキャッチできる感性」を持っているか。
他にも、日常でクスッと笑えるものを見たり、ふと見かけた犬や猫をかわいいと思ったり。
その時の思いを言葉にしたい。そんなウズウズ感が「発信力のタネ」です。

その着想を5・7・5に乗せて、俳句は完成します。でも俳句にしなくとも「ウズウズ感」を
持てば、俳句を見たときに「受信する力」も養われますよ。要は、俳句が苦手な生徒は
「俳句そのもの・表現そのものに興味がない」ことが多いのです。

先ほどの表で「1・8・12・16の句」は日常のユーモラスな情景をキャッチし、
ユニークに発信しています。他の句もよく見れば「新しい季節の到来を喜ぶ」「自然の意外な
一面に驚く」など、筆者の心の動きに気がつけるかもしれません。その感性を磨くのは、教室の中だけではちょっと難しいかもしれませんね。小学生の頃にはなかなか気がつきにくいですが、
都会であっても…いや「都会であるからこそ」、日常に俳句の題材は転がっています。
「すごい!」「かわいい!」「おもしろい!」「さびしい…」「泣ける…」といった「感動」を見つけ出してみてください。その題材を5・7・5のリズムに近づけていく…そういう体験をすれば、塾で俳句の授業を受ける時に効き目が出ますよ。

今回は手紙の挨拶でいう「立夏の候」に、夏の季語(4~6月)を持つ俳句を扱いました。
季節はめぐります。今この時期にしかできない『気づき』を『学び』に変え、『教養』として
修めてゆきましょう。

「日日是学日!」(⇒ 日々、これ学び!)」

国語ドクター