指導法【理科】
理科が苦手、と感じているみなさんへ

理科が苦手という生徒に「どの単元が苦手?」と訊くと、いちばん多い答えは「電流」でしょうか。それも、電磁石や発熱よりも、基本の電流回路が苦手という子が多いです。なぜでしょう?ほとんどの生徒が正確に理解していないからです。一般的な小学生の持っているイメージと電流の実際のふるまいが違うため、イメージに流されて混乱しているケースがよく見られます。理科が苦手という場合、このように自分の持っているイメージと合わない、もしくは理科的なものにほとんどイメージがない、というケースが大半です。ここを修正する(ない場合は作る)ことがいちばん大切と、私は考えています。
「電流」で話を進めてみましょう。

1.正しい理解~イメージを作る~

電流の話を始めるとき、私はまずフィラメントの話をします。
「豆電球のフィラメントの部分は電流が通りやすい?通りにくい?」
答えは「通りにくい」。
理由は、フィラメントを見てみれば分かります。細くて、グネグネ曲がっています。電流が流れるとき、導線の部分は通りやすいけれど、豆電球のフィラメントの部分は通りにくくて大変。そこに無理に電流を通すと、光るのです。この考え方は後の「抵抗と発熱」にもつながり、電流の基本となる重要事項ですので、まずはこのイメージを徹底します。

さて、回路に入ります。まずは図1のような豆電球1個乾電池1個の回路。ここに流れる電流を1とします。

-図1-

次に図2。豆電球1個、乾電池が直列に2個の回路。ここで乾電池の役割を確認します。乾電池の役割は「電流を流そうとする力」。電流を流そうとする力が2倍になったので流れる電流は2になります。ここまではほとんどの生徒のイメージと一致するものです。

-図2-

ここからが重要なパターン、まずは図3の豆電球が直列に2個乾電池1個の回路です。
「電流を流そうとする力」は1ですが、豆電球が2個。豆電球のフィラメントは電流が通りにくいので、豆電球の役割は「電流が通るのをジャマする」です。
1で流したい乾電池に対して、ジャマが2なので電流は1/2になります。
ここで大事なのは、回路全体に1/2の電流が流れるということです。どこの電流も1/2です。ここが多くの生徒のイメージと違うところです。

電流は乾電池から出てくるわけではありません!

導線の中全体に電気の粒が初めからあるのです。ただ、流れてはいない。
乾電池をつなぐと流れます。
乾電池が「電流を流そうとする力」を出してくれるからです。
電流の大きさは電流を流そうとする乾電池と、ジャマしようとする豆電球の力関係で決まります。
図3では「1の力で流そうとする」乾電池、「2でジャマする」豆電球で、全体を流れる電流が1/2になるわけです。

-図3-

図4の回路ではどうでしょう?
乾電池、豆電球ともに2個の直列です。
乾電池は「2の力で流そうとする」豆電球は「2でジャマする」
→結果1の電流が全体に流れることになります。

-図4-

まずはここまでのイメージを、豆電球や乾電池の数をいろいろ変えて確認します。

次に並列回路に入ります。
まずは図5の豆電球2個並列、乾電池1個のパターン。並列の場合、電流はお互いに関係なく流れるのでどちらの豆電球にも1の電流が流れます。

-図5-

図6の豆電球1個乾電池2個並列。
乾電池は直列につなぐと「電流を流そうとする力」が増えますが、並列につないでも増えません。なので、1個の乾電池がつないであるのと同じで、豆電球に流れる電流は1になります。

-図6-

2.解法を身につける~手の動かし方~

結局、豆電球を並列につないでも、乾電池を並列につないでも、豆電球に流れる電流は変わらないのです。ここまで納得してもらったところで、解き方を伝授します。

①並列になっているところを隠す。
②豆電球に流れる電流を書き込む。
③豆電球からたどって、乾電池に流れる電流を書き込む。

図5でやってみましょう。
まず下の豆電球を指で隠します。
豆電球1個乾電池1個なので豆電球に流れる電流は1です。
次に上の豆電球を隠しても同様に1。
ここからが重要です。両方から1流れてくるので、図の合流地点で2になります。そのまま青線の部分は2の電流が流れて、乾電池に流れる電流は2になります。

-図5´-

図6では
下の乾電池を隠す。
豆電球1個乾電池1個なので豆電球に流れる電流は1。
ここからたどると乾電池に着く前に分岐点があります。ここで電流が分かれるのがポイントです。1の電流が2つに分かれるので電流は1/2ずつに分かれます。

-図6´-

ここまで説明したところで、いろいろな回路で演習をしてもらいます。もともとの誤解イメージが強いと少し時間がかかりますが

・並列を隠す。
・一本道では電流は変わらない。
・必ず豆電球から電流を書き込んでたどる。

を守って練習すると、少し難しそうな図7、8のような回路も簡単に出来るようになります。

図7
乾電池が並列になっているので1個隠す。
乾電池1個豆電球2個なので豆電球に流れる電流は1/2。
豆電球からたどり、分岐点で分かれて乾電池に流れる電流は1/4。

図8
豆電球が並列になっているので下の豆電球を1個隠します。
乾電池2個豆電球1個なので上の豆電球に流れる電流は2。
同様に上の豆電球も隠して、下の豆電球に流れる電流も2。
上下の豆電球から2ずつ流れてくるので乾電池には4流れます。

-図7、図8-

さて、なぜ乾電池に流れる電流まで考えるのでしょう?
乾電池に流れる電流の大きさで乾電池の長持ち度が変わってくるからです。
乾電池に強い電流が流れるほど、電池はすぐにダメになってしまいます。
図1~6では1/2流れている図3と図6が長持ちです。図7の回路では乾電池に流れる電流が1/4になるのでもっと長持ち、図8では4になってしまうのですぐダメになってしまいます。

最後に、ショート回路。図9を見てください。電流くんは実は怠け者です。
上の道(青)は豆電球があるので通りにくくて大変、下の道(赤)は何もないのでラクです。
電流くんはラクな道があるとそちらだけを流れます。その上お調子者で、ラクだとなるとガンガン流れます。
結果、豆電球はつかず、電流は赤い道だけをガンガン流れます。
するととても強い電流が流れたので乾電池は一瞬でダメになる。これがショート回路です。

-図9-

ちなみに、図10のように両方に豆電球がある場合は両方に流れます。ラクな下の方により多く流れますが。

-図10-

指導実例

3.反復~完全に身につける~

いったん出来るようになっても、1ヶ月2ヶ月経ってみるとまた混乱することも多い電流です。それでも、2回目は1回目よりスムーズに出来るようになります。たいてい、3~4回繰り返すと、確実になります。頻出単元の上苦手な生徒の多い電流、得意にするととても有利です!

理科の得意なみなさんへ~女子学院の入試問題にチャレンジ~

次に、女子学院の問題を解いてみましょう。一見そんなに難しく見えませんが、完璧に解くには深い理解と多方向からの視点を要求してくる学校です。その中でも典型的なABC問題にチャレンジしてみましょう。H12年度の問題です。

[Ⅲ]-[2]ドライアイスをそのままおいておくとすべて気体になってしまう。その気体は石灰水に入れると白く濁る。ドライアイスが気体になる時、その体積はどれくらいになるかを調べるために次のような実験をした。

―図11―

(実験) 上図のような装置(A~D)を組み立て、1gのドライアイスが気体になる体積を、時間の経過とともに測った。
A:丸底フラスコ(ドライアイス入り)を直接メスシリンダーにつなぐ。
B:丸底フラスコ(ドライアイス入り)とメスシリンダーの間に300cm3の三角フラスコを入れる。
C:丸底フラスコ(ドライアイス入り)とメスシリンダーの間に1000cm3の三角フラスコを入れる。
D:水そうの水の中に直接ドライアイスを入れる。

(実験)の結果を表したのが下のグラフである。
また、装置A~Dの水そうの中にBTB液を入れて上の実験をしたら、A、B、D、の3つでメスシリンダーの水の色が黄色になった。

―グラフ―

1 BTB液のかわりにムラサキキャベツ液を入れるとどのようになりますか。

2 BTB液を入れて色が変わったA,B,Dを1日置いておくと、色はどのように変わるか。予想されるものを選びなさい。
ア 水そうの色も黄色くなる。
イ 深いところは濃い黄色で、浅いところは薄い黄色になる。
ウ 深いところは黄色で、浅いところは緑色になる。
エ 色は消えてしまう。

3 装置B,Cの三角フラスコの中のガラス管は左の方が右よりも長くしてある。その理由を説明しなさい。

4 次に(1)~(6)の文で、この実験結果から考えて正しいものにA、間違っているものにB、この実験からはわからないものにCを書きなさい。
(1)装置の中の三角フラスコを2000cm3にして実験すると、装置Cよりもたくさんの気体がメスシリンダーにたまる。
(2)この気体はメスシリンダーの中にたまってから水に溶けてくる。
(3)ドライアイスが気体になる速さは、空気中より水中の方が速い。
(4)メスシリンダーにたまった気体をそのまま長時間ためておくと、装置Dでは半分ぐらいまで気体が減る。
(5)この気体の体積を正確に測るには、その体積よりも大きい体積の三角フラスコを間に入れるのが最もよい方法である。
(6)グラフが平らになるまでの時間とたまった気体の体積は比例している。

5 グラフの①~④は、どの装置によるものと考えられるか。A~Dの記号で答えなさい。

~解説および解答~

1

ドライアイスが気体になると二酸化炭素になることは受験生なら知っていますね。石灰水が白く濁るということまで親切に教えてくれています。炭酸水は酸性だからBTB液では黄色、ムラサキキャベツ液ならピンク色です。赤でもよいですが、炭酸水は弱い酸性なので、「ピンク」または「桃色」と答えるのがよいでしょう。

2

水溶液は時間が経つと溶質が広がっていき、どこでも同じ濃さになります。加熱しない限り二酸化炭素が出て行くこともありませんので、「ア」。

3

これは、最近の大手塾の授業では必ず習うはずです。
二酸化炭素は水にとけてしまうため、水上置換で直接集めると発生した体積よりも少ない値になってしまいます。
発生した体積を正確に測定するため、二酸化炭素を空気(主成分の窒素も酸素もほとんど水にとけない)で置き換え、空気の体積を測定します。
図12を見てください。
二酸化炭素は空気より重いので三角フラスコの下にたまり、その分の空気が上から追い出されてメスシリンダーに集められます。
ガラス管の長さを逆にすると、二酸化炭素を集めることになってしまい、正確な体積が測定できません。

―図12―

よって答えは「空気より重い二酸化炭素を三角フラスコの下のほうにためて、空気を追い出すため」

 

4

出ました!ABC問題。ここでA~Dの装置とグラフについて考えてみましょう。
グラフでは①だけが他のグラフと違っています。図を見ると、他と違っているのはD。つまり①-Dだということは予想がつくでしょう。
さて、どうしてDだけグラフが離れているのか?決定的な違いはグラフが平らになるまでの時間です。
Dだけ4分ほどで平らになっている。その後気体の発生量が変化していないので気体の発生は終わったということになります。
つまり、Dは他より気体の発生が速かった。Dだけが水中に、他は空気中にドライアイスがありますから、水中の方が速いことがわかります。よって(3)は「A」。

次に②③④を考えます。途中までは同じように変化していますが、集まった気体の体積は少しずつ違います。

②は525cm3、③は550cm3、④は575cm3

くらいでしょうか?なぜこの違いが出るのか?
間にはさまっている三角フラスコの違いです。
3で説明したように三角フラスコは二酸化炭素を空気で置き換えるために入れています。
Bでは300cm3、Cでは1000cm3の二酸化炭素を空気と置き換えることが出来ます。(丸底フラスコを考えるとAでは50cm3、Bでは350cm3、Cでは1050cm3まで空気と置き換えられる)
つまり空気と置き換えられる量はAがいちばん少ないため、二酸化炭素を直接集めることになり、溶ける量が多くなる→集められる量は少なくなる→②。次に溶ける量が多いのがB→③、最後にC→④、となります。

以降、置き換えられる空気は丸底フラスコの分を含んだ値で示します。
A:50cm3
B:350cm3
C:1050cm3

ここで(1)です。Cでは1050cm3まで空気で置き換えられるのに、集まった気体の体積は④の575cm3です。
これはすべて空気が集められていることになりますから、発生した気体の体積が575cm3だったことがわかります。
Cのメスシリンダーの水の色が黄色くならなったことからもすべて空気だったことが確認できます。
よって、この実験のドライアイスから発生する二酸化炭素は575cm3ですから、2000cm3の三角フラスコにして空気で置き換えられる量を増やしても、集まる体積は変わりません→「B」

※補足 Bでも575cm3の二酸化炭素が発生しますが350cm3までしか空気と置き換えられないため二酸化炭素が一部溶けて550cm3、
Aでも同様に575cm3発生しても50cm3までしか置き換えられないため、二酸化炭素がかなり溶けて525cm3、となっています。

次に(2)。メスシリンダーの中にたまってから気体が溶けるのであれば、グラフは平らになるのではなく、図13のように時間とともに下がってくるはずです。よって「B」

-図13-

(3)は上に述べました。「A」。

(4)を(2)と同様に考えると、ためておいても気体の量は変わらないと考えられますが、この実験は20分までしか行っていません。長時間になるとどうなるか判断できないので「C」。

(5)はまさにそのとおりで「A」。発生量575cm3よりも小さい体積のBでは正確に求められず、発生量よりも大きい体積のCでは正確に求められていることから確認できます。

(6)は具体的な数値で確認しましょう。
①は4分で500cm3
②は10分で525cm3
③は10分で550cm3
④は10分で575cm3
まったく比例ではありません。よって「B」。

まとめると「(1)B(2)B(3)A(4)C(5)A(6)B」

5

もう、4で求めてしまいました。というより、これがわからないと5は解けませんね。
「①-D、②-A、③-B、④-C」
ただ、4の段階でわかっていなくてもあきらめることはありません。
4の内容を考えているうちにどれがどれかわかることもあります。ABC問題は何について考えればよいのか、ヒントを与えてくれているのです。

いかがだったでしょうか?与えられた実験の条件や結果を、自分の持っている知識を使って考察していくのが理科です。この問題では実験の図とグラフの形や値に二酸化炭素のふるまいが詰め込まれています。そこを発見していくのが理科の面白さ。入試問題にも、こんな面白い問題がたくさんあります。