高田 いさむ先生
「わかる」から「できる」へ
「できる」から「受かる」へ
理科という科目は、「知識」と「思考力」の2つが両輪としてバランスよく備わっていることが重要になります。
ここでいう「知識」とは、植物や虫、星などの名前を代表とする、それ以上は理屈で説明ができないもののことを指します。
物理や化学の法則も、宇宙や世界を観察した結果、「どうもそうなっているらしい」以上のことが言えないのであれば、それは「知識」です。
一方で、ここでいう「思考力」とは、「知識」をもとにして、理屈や科学的な視点を持って考えることができる力を指します。
さまざまなデータを読み解いて法則を発見することも含みますし、未知の現象に対して手持ちの知識を駆使して筋の通った理屈を自分なりに考えてみることも含みます。
どんなことでも、習得してしまえばすべて「知識」ということもできます。
しかし、ここでは理科の学習の特徴をわかりやすくするために、「知識」と「思考力」というものを分けて考えます。
分野によって知識と思考力のバランスは異なり、たとえば、物理分野は知識があまり多くなく、根本的な原理原則を利用した思考力が求められます。
一見複雑に見える現象にも、シンプルな法則があるはずと考える視点が重要になります。
化学は知識と思考力がちょうど50%ずつ必要なイメージです。
特に、目に見えないミクロな世界を考えることがメインになるため、正しいイメージを持つためにも正確な化学の知識が必要になります。
生物・地学分野は、どちらかというと知識が占める割合が大きくなります。
ただし、地学分野の中でも、天体や大地の変化などの単元は、最低限の知識は覚えつつ、考える力がないと対応できない問題も多く見られます。
また。生物分野の中でも、実験や観察に関する問題は、データの読み取りや、そのデータから科学的に考える姿勢が必要になります。
以上のように、理科の学習では、どこまでを知識として覚えるべきか、どこから先は思考力を鍛えるべきか、正しく線引きできていることが大切になります。
理科の学習では、暗記力に自信があるなら、すべての内容を知識として「これをすべて覚えておこう!」と学習することは不可能ではないです。
しかし、実際にそういったことができるのは一部のお子さんだけで、普通の小学生にはすべてを覚えるということはまずできません。
できないだけではなく、それは学習のやり方として非効率でもあります。
そもそも丸暗記の学習は応用も利きにくく、思考力を重視する問題には立ち向かいにくいです。
そして、いわゆる難関校ほど、単純な知識の多さよりも、本質的な理解や科学的な思考力の有無を試す問題を多く出題します。
こういったことを考えると、理科の学習は、覚えることは最低限におさえ、覚えていなくても考えればわかる、という状態を作る方がより大切だということになります。
少なくとも私が理科を指導する際は、「これを覚えなさい」ということはなく、むしろ「これ以上は覚えなくていい」という方が多いです。
また、覚えるしかない場合でも、できる限り他の分野や科目と関連させて、知識をより深く記憶に残りやすいものにするように工夫します。
一見すると覚えるしかないただの「知識」に見えるものでも、実はそこには物理的、化学的な理屈が隠れていることが多いです。
特に生物分野は、ほとんどが覚えるだけの「知識」に見えますが、少し考えてみると中学受験で学習した化学的な知識で理解できることもあります。
たとえば、人体の単元で学習する血液の成分を考えてみましょう。
酸素を運ぶのは赤血球で、赤血球の中のヘモグロビンという赤い色素が酸素と結びつきます。
一方で、二酸化炭素は液体成分の血しょうに溶けて運ばれることになります。
ここまでは「知識」で、これは覚えるしかない部分です。
では、なぜ酸素だけに赤血球という特別の「運び屋さん」がいるのでしょうか?
なぜ、二酸化炭素は血しょうで運ぶことができるのでしょうか?
これは、化学で学習した気体についての知識があれば理解できます。
二酸化炭素は少しですが水に溶けます。
そのため、血しょうという液体成分に溶けて運ぶことができるのです。
ところが、酸素はどうでしょうか?
酸素は水にほとんど溶けることがない気体です。
そのため、血しょうに溶かして運ぶことが難しいのです。
わずかであれば溶けるのですが、それでは食事から吸収した糖分を燃焼させて熱を取り出す呼吸に使うには量が少なすぎます。
安定して大量の酸素を細胞に供給するには、専用の「運び屋さん」がいないとムリだということです。
もうひとつ別の例を挙げます。
地学分野の岩石についての学習で、マグマが冷え固まってできる火成岩について学習します。
火成岩は、地表付近で急速に冷え固まったできる火山岩と、地下深くでゆっくり冷え固まってできる深成岩に分かれます。
このとき、火山岩は鉱物の結晶が小さい斑状組織というつくりになり、深成岩は結晶の大きな等粒状組織というつくりになります。
ここまでは「知識」でこれは覚えるしかない部分です。
では、なぜ火山岩は結晶が小さくなり、深成岩は結晶が大きくなるのでしょうか?
これは化学の溶解度の単元で学習した知識と結びつきます。
水溶液に溶けている物質を固体として再び取り出すと、結晶ができます。
これを再結晶と言います。
再結晶の際に、できるだけ大きな結晶を作ろうと思ったら、ゆっくり再結晶させる必要があります。
これは結晶というものが、小さな核が大きく育つようにできるため、どうしても大きくなるのに時間がかかるのです。
ここまでが理解できると、なぜ火山岩が斑状組織で、深成岩は等粒状組織になるのかが理解できます。
火山岩は地表付近で急速に冷え固まるので、結晶が大きくなる時間がないのです。
一方で、深成岩は地下深くでゆっくり冷え固まるので、結晶が大きく育つことができるのです。
いかがでしょうか?
例をふたつ挙げましたが、以上のように化学的な知識があると、生物分野や地学分野の知識もより深く理解できるようになります。
また、化学分野の知識の復習や確認にもなります。
このように、知識を単なる暗記と考えず、なぜそうなるのか、どういった化学的な理由、物理的な理由があるのかと考えると、学びはより深くなります。
また、初めて見る実験結果や現象に対しても、手持ちの知識で科学的に考えれば何か法則や理屈があるのではないか、と考える思考のクセをつけることにもなります。
そして知れば知るほど、わかればわかるほど、様々な知識が有機的につながって、この宇宙や世界の面白さや不思議さをより実感できるようになります。
それが理科を学ぶ最大の面白さでしょう。
ぜひ一緒に楽しい学びをしていきましょう。
