指導方針(国語)
国語は「あいまいな科目」ではない

国語という科目は昔から、「答えがあいまいな科目」、「正解が一つにならない科目」という誤解をされることが多いようです。不思議なことに、これは学生時代に国語が得意だった人からも苦手だった人からも聞かれる言葉です。
しかし!
国語、とりわけ入学試験におけるテストとしての「国語」は、ちっとも「あいまいな科目」ではありません。ただ、正しい読み方・解き方をきちんと知らない人が多すぎる科目なのです。この場では、どの学年のお子さんにも身につけてほしい「正しい読み方」についてご紹介します。

正しく読むのに必要な力とは?

① 文章の構成(組み立て)に気づきながら読む力

② 語彙力(単語の知識、比喩、心情や情景に関する一般常識的な知識)

③ 類比や対比、因果といった「つながり」を読み取る力

① 文章の構成(組み立て)を意識して読む力

ちょっとここで、一話完結型のアニメ番組を思い出してみましょう。

① 主人公の少年がある日、とても便利な魔法の品物を手に入れた。
② 少年が試しに品物を使ってみたところ、本当に効果があった。彼は調子に乗ってどんどんそれを使う。
③ 品物自体が壊れてしまったり、品物の効果が暴走したりして、何か主人公にとってとんでもなく悪い事態が発生する!
④ こんな品物を使うんじゃなかった…と主人公が泣きながら助っ人を求め、誰かがどうにかして事態を収束させる。

このような物語は、文章構成としてはオーソドックスな「起承転結」の形をとっています。いわゆる「お約束パターン」です。
お約束ゆえ新鮮味には欠けますが、その分、途中でトラブルが起きても「きっと何らかの形で収束するのだろう」と安心して見ていられるという利点があります。もし仮にこの物語が、「主人公が品物を使いすぎて大暴走、世界は大変なことになってしまいました。終わり」という結末であったら、読者は非常に据わりの悪い気持ちになることでしょう。(実際にそういう作品も存在はします。「お約束を無視する」ことで意外性を加味しているので、これもある意味「お約束」に則った作品であると見ることができます。)
我々は、この「起承転結」という構成の物語を既に知っているので、ある程度先の展開を想像しながら読むことができるわけです。

「構成の知識」を無意識に利用しているケースは、文学的文章の場合に限りません。
今度はテレビの「ちょっとお役立ち系のバラエティ」を想像してみましょう。

皆さん、パンダのしっぽの色を思い出せますか?
耳や手といった目立つパーツが黒いことから、黒だと思う方も多いかもしれませんね。
ところが!
実はパンダのしっぽって、白いんです!

これもお約束の構成です。国語の得意な人でも苦手な人でも、二文目の時点で「あれ? では本当は…白?」とある程度先読みができたのではありませんか?
この「①問いかけ文→②予想される反論→③打消し→④正解」という文章の進め方も、説明的文章におけるお約束の構成です。今回は簡単な例を使っていますが、難しく抽象的な内容であっても同じような進め方をする文章は非常に多く存在しています。

文学的文章にせよ、説明的文章にせよ、筆者は誰か不特定多数の人に何かを伝えたくて文章を書いているのです。より伝わりやすくするためには、皆がすらすらと読めるような、皆が理解しやすい構成を使って書いた方がお互いにとって都合が良いのです。つまり、我々読み手は、文章の構成を意識することで、読み間違いを減らすことができるということです。

②語彙力と常識力

国語が苦手なお子さまは特に、この力が弱い傾向にあります。また、国語が比較的得意なはずがたまに大きく失点してしまうお子さまも、ここがネックになっている場合が見られます。
低学年のうちは「花子さんは笑った。」とストレートに表現されていた心情語も、受験を意識し始める四~五年生くらいになると「花子さんは顔をほころばせた。」「花子さんは面映ゆそうな顔で先生を見上げた。」「花子さんは目を細めた。」のように、日常生活では見慣れない表現に変化してきます。そして、言葉が難しくなると同時にその細かいニュアンスの違いにも気を配る必要性が生じてくるのです。普段からこのような表現には注意し、知らないものについては調べ、その語のニュアンスも同時にインプットしていくしかありません。

比喩も、苦手とするお子さまが多いようです。「バラのような美女」と「ユリのような美女」とが登場した場合、大人であれば「バラのような(華やかな魅力を持つ)美女」、「ユリのような(すらりと淑やかな印象の)美女」とイメージを付加して連想することができますが、子どもたちにはこのようなイメージの蓄積はまだほとんどありません。こちらも、ある程度大人の方から「これはこのようなイメージの象徴として使うんだよ」ということを見せていく必要があります。

そして、子供たちがもうひとつ苦戦するのが一般常識です。これは、お子さまが非常識な子であるという意味では断じてありません。ただ、入試問題に登場する文章の中を通底する「大人世界の常識」が、彼らには実体験として備わっていないのです。
我々大人は、「携帯電話のない世界」から「携帯電話のある世界」への変化を体感していますので、携帯電話がない時代の小説を読んでも「そういう時代だったからこのような不便が生じたのだろう」と納得することができます。また、体験していないことであっても、学校の授業や様々な作品から「戦時中の日本人の食生活は非常に厳しいものであった」ということは、当たり前のように知っています。国語が好きであった方なら「日本と欧米における自然観の違い」なども、このフレーズを見ただけである程度内容を予想できてしまうことでしょう。
小学生の子どもたちは、今まさにこれらの「大人世界の常識」を吸収していく時期にいるのです。いずれは自然と身につくものではあるかもしれませんが、中学受験を控えている子どもたちであれば、早いうちに知っておいた方が確実に得をします。

③類比(言い換え)・対比(比較対照)・因果(つながり)

文学的文章・説明的文章、その他分野を問わず重要な考え方ではありますが、今回は文学的文章を使って例を挙げてみます。

類比とは、同じ内容を様々な語句で表すことです。
ユウトぼくの同級生で、非常に活発な少年だった。ぼくにとって、かれ小学校時代のあらゆる愉快な思い出の象徴であった。その象徴から、20年ぶりに手紙が届いたものだから、ぼくは驚いた。」
この文章で二重下線を引かれている部分はすべて、同じ「ユウト」という人物のことを異なる表現で表したものです。読者としては、きちんとそれに気付き、追いかけながら読んでいく必要があります。
また、具体と抽象の相関関係を把握するのにも、この能力が必要です。こちらは主に説明的文章で必要になってきます。

対比とは、反対の性質のものと比べて、特徴をはっきりさせることです。
「私はクッキーを一枚しか貰えなかった。」よりも、「あの子はクッキーを二箱も貰ったのに、私はクッキーを一枚しかもらえなかった。」と書かれているほうが、「私」がクッキーを少ししか貰えず落ち込んでいることがはっきりと分かります。

因果というのは、原因と結果のつながりです。文学的文章においては、「出来事→心情(→行動)」の繋がりが非常によく問われます。

自分のチームが優勝したというアナウンスを聞いて、体の力が抜けた
(安堵、ほっとした)
弟が大けがをして救急車で運ばれたと聞いて、体の力が抜けた
(ショック、衝撃を受けた)

このように、同じ「体の力が抜けた」という表現であっても、きっかけとなった出来事によっては異なる意味になってしまう場合もあるので注意深く読むことが必要です。また、これらを正しく読み取り、適切な心情に言い換えるという記述式の設問は非常によく出ますから、日頃から繋がりを意識して答える訓練をしておかなければなりません。
結局はこのポイントを教える

授業を通して

国語の難しいところは、同じ文章が出題される確率が非常に低いこと、また、もし仮に同じ文章であったとしても設問の形式などで難易度は大きく異なってしまうことにあります。子どもたちが国語の問題を解くときに、まず意識するのはやはり本文の内容そのものでしょう。「本文が分かりやすければ点が取れ、内容を理解できなければ点が取れない。」それが一般的な小学生の姿です。そんな姿が一般的だからこそ、講師の方で「どんな題材を使っていても結局はこのポイントを教える」という確固たる要素を決め、ぶれることなく指導し続けていくことが非常に重要になってくるのです。
受験ドクターの授業を通して、お子さまが上記のポイントを押さえながら本文を読み取り、安定して得点を取っていけるよう、ご指導いたします。

指導実例

指導法では主に文章を理解するための理屈を述べてきましたので、こちらでは設問のほうに着目してみたいと思います。今回は記述式問題の各パターンの解き方をご紹介します。(以下登場する設問、本文はすべてオリジナルのものです)

設問1 「日本人のこのような性質を聞くと、多くの外国人は驚くようだ。」とありますが、ここでの日本人の性質とはどのようなものか書いて説明しなさい。

パターン1 「指示語の内容がどういうもの/ことか説明しなさい」
指示語や比喩がどのような内容を指し示すのかを問う問題です。指示語(こそあど言葉)は多くの場合、その直前で説明された内容をまとめる際に使われます。本文の直前部分を読み返してまとめます。
→「日本人の、大震災の直後だというのにコンビニの前できれいに行列を作るという性質」
 本文の具体例をそのまま入れ込むと、このようになります。「具体的に」という指示があればここで終わりにする場合もありますが、ただ「説明しなさい」という設問であればここから抽象化した方が、きれいな解答になります。
解答1「日本人の、非常事態であってもマナーを守って行動しようとする性質」

設問2 「それでも、美奈は拳を握りしめたまま山野君を睨みつけていた」とありますが、このときの美奈の心情を説明しなさい。

パターン2 「どのような心情なのか説明しなさい」
文学的文章が出題された場合、心情に関する問題は必ず出題されます。基本的な考え方をしっかりと身につけておけば、記号選択でも記述でも同じように考えて対応することができます。

①「それでも」の内容は何か?
「出来事→心情」のサイクルのうち、「出来事」部分を読み取ります。
→山野君がサヤカの作品を割ってしまったのがわざとではないとはっきりと分かった
②「拳を握りしめたまま睨みつける」を心情語に
「出来事→心情」の心情部分です。傍線部内では動作、比喩などで表現されている気持ちを、心情語にまとめます。
→怒りを抑えられない状態。
③必要な情報があれば追加する
前後の表現の中で、必要そうな情報(理由など)があれば、こちらも追加します。
解答2「山野君がサヤカの作品を割ってしまったのがわざとではないとはっきり分かったが、昨日の山野君のふてくされた態度と泣きじゃくるサヤカの顔を思い出し、怒りをしずめることができずにいる。」

設問3 「敬語は不要だという考えには賛成しかねるのである。」とあるが、筆者がこのように考えるのは何故か。説明しなさい。
パターン3 「理由を説明しなさい」
文学的文章・説明的文章いずれでも頻出の問題です。まずは本文から該当する表現を探します。※答えには含めませんが、因果の繋がりがずれてしまわないように、「○○○○(だから)、敬語は不要だという考えには賛成しかねる。」と意識しながら組み立てていくと、ミスが少なくなります。
→日本語においては、敬語は千年以上の歴史を持つ重要な要素のひとつであると言える。それをただ単に「面倒くさいから」「外国語にないから」などという理由で廃止してはならない。敬語を含めての日本語である以上、これを廃止してしまうことは言語文化にとって大きな損失になってしまうはずだ。(だから)、敬語は不要だという考えには賛成しかねる
要素の取捨選択をし、一文にまとめます。
解答3「千年以上の歴史を持ち、日本語の重要な要素である敬語を廃止してしまうことは、言語文化にとって大きな損失になると考えているから。(~、敬語は不要だという考えには賛成しかねる)。」
繰り返しにはなりますが、本文と設問とを正しく+同じ方法で読み取る訓練を繰り返すことで、国語の力は向上していきます。中でも記述形式の問題については、一斉授業で模範解答を書き写しているだけで上達することは非常に難しいといえます。個別授業では、当然お子さま一人一人の答えに細かくチェックを入れていきます。受験ドクターの授業によって、一人でも「国語、好きだよ!得意だよ!」というお子さまが増えるよう、私も各講師も日々勉強し、全力で授業に取り組んでおりますので、何卒よろしくお願いいたします。